絶景の山岳地帯にカフラシルを in 裏大山

Scene-1

2016年10月26日 22:50

愛幕であるローカスギア カフラシルについて常々思っていたことがある。

美しい稜線を描く張り姿がおしゃれなヤツで、GOOUT系のウケも間違いないだろう。かく言う、私の購入動機もそんなものだった。
でも使い込むほどにこのシェルターの素晴らしさは外見だけではないことが分かる。
タフコンディションにも動じないスキのない設計は恐らくそんなミーハーな想いのものじゃない。

こいつを人工的なキャンプ場でしか使わないなんて勿体ない話はない。
こいつをファッション的にのみ扱うなんて公道しか走らないフェラーリとか、おうちでヒルバーグみたいなもんだ。

だから・・・










一度はこんなところに張ってやりたいじゃないか。


と、10/22(土)目指したのは裏大山。
どっちがメインかは微妙だが、せっかくここへ行くのだからマニアックなバリエーションルートも登りたい。
ちなみに百名山のひとつである大山は、前日に大地震が起きた鳥取県にある。
色んな意味で不安はあったが、この機会を逃すと今後半年はお預けだ、行くしかない。


このような登山らしからぬルートで、砂防提の連なる沢をどんどん奥へ入っていく。
奥に見えるのが目指す大山の南壁だ。



最後の大堰堤を越えたら北アルプスのような絶景が一気に広がり、度肝を抜かれる。
西日本にこんな風景があったなんて信じられない。



通ってきた方角も開けて素晴らしい展望だが、南壁のそれと比べたらやはり見劣りしてしまう。
むしろ景色のことよりも、風が吹いたらこの沢は悲惨だろうなと、ふと思った。



ガレ場に張るのも過ごすのも初めてなので、何かと手間取った。
特にここはほぼすべてが斜面なことも手伝って、その不慣れさは昼メシにもアクシデントを招いてしまった。



チビ男はラーメン、私はうどんを。
それぞれクッカーに移して温めるだけの即席モノだったが、後に作って油断した私は不安定なバーナーからクッカーを落としてしまい、つゆが全部こぼれて汁無しうどんの出来上がりに。
脳裏で「チーン・・・」と鳴った。
先に食べ終えていたチビ男のラーメンのスープが幸いにも残っていたのでそれをぶっかける。
ありそうでなかった「中華うどん」を食う羽目になった。

さて、メシを食ったら出発だ。

今回は写真中央あたりの槍ヶ峰を経て、恐怖の痩せ尾根を歩き、写真左の剣ヶ峰という真の山頂へ行こうという計画。
怖くて無理と判断すればそこまで。地震の影響も上がってみないと分からないし、ただでさえ痩せた尾根だから地震の影響なしとは考えにくかった。

途中までは踏めば埋まるアリ地獄のようなザレが続く。
下から尾根を見上げると「これ上がれるんか???」というほど急だ。



最初はトラバースしながら上へ向かうが、半分はほとんど直登に近く一気に標高が上がっていく。
頂上へ近付くにつれ「これ下りれるん?」とチビ男が何度も聞いてきたが、まさにその通り。
オトンは「登れるってことは下りれるわ」とうそぶく。



これまでの山行とは比較にならない危険度だが不思議と怖さは感じなかった。



このあたりから雲が厚くなり、風が強まり出した。
終盤、登れど登れど槍ヶ峰が近づいて来ない感覚に陥る。地図を見てもえらく遠い。
後で分かったことだが、途中でGPSを切ったままなのに気付かずに位置を誤認していたのだ、痛恨の凡ミスだった。

その後、踏み跡はいくつかに分かれ、ここぞというルートを行くがGPSの見誤りもあり恐らくこのチョイスもミスっていた。


槍ヶ峰らしきところに辿り着くが、ザレだらけ踏み場もないような垂直に近い壁をなんとか登って峰に頭を出したところで、チビ男が「もうやめとこう」と制止する。

では・・・と下りようとして掴むところも草ぐらいしかないことが下りこそ影響することに気付くと「あ・・・やばいかも・・・」と一瞬、遭難救助が頭をよぎる。
心を折らないように気を引き締め、チビ男をサポートしながら注意と檄を飛ばす。

本来でない方向から槍ヶ峰に取り付いたのか、大地震でルートが崩落していたのか、原型が分からないので判断のしようがない。

いずれにせよ剣ヶ峰への稜線がまったく見えず、ガイドできないオトンが怖がるチビ男をこれ以上進ませるのは無謀以外の何者でもないと思った。



途中安全なところまでチビ男を下ろし、他に見つけた踏み跡から1人で別の尾根へ行くが、また先程の危険箇所へ取り付くだけ。位置を誤認しているので元も子もない。
ここで潔く諦めて再訪を誓う。



途中までは上がったテンションで分からなかったが、ふと気付くと太腿はパンパン。3日間は筋肉痛が続いた。
途中撤退でもやり切った感は充分あり、下山して至福のコーヒーブレイク。



しばらく南壁を拝もうと思っていたが、見る見るガスが立ち込めほぼ視界ゼロに。
仕方なくマットに寝転んで、チビ男と雑談しながらビールを煽る。



山だとやはり腹が減るのは早い。
夕飯は「鶏すき」だったが、これをこぼしてはシャレにならんと、昼間のミスを教訓にかまどを組む。



昆布から出汁をとって、薄口醤油で味を付けたらみりんの代わりにザラメを少々。



「うっまー!」とチビ男。
家では食が細いが、山ではモリモリ食うので嬉しくて気持ちがいい。

オトン「これ家で食っても大したことないんよな~」
チビ男「よな~」



お下品だが鍋にクッカーを投入して熱燗を。気温はかなり低かったので冬先取りだ。



朝のうちに買って保冷バッグに入れて置いた氷もほとんど溶けずに保管できた。
ウォーターバッグに忍ばせてきたジンロックをグイグイいく。



食後、音楽を物色していたら「面白い歌」のリクエストが来たので残っていた昭和の演歌集から千昌夫の味噌汁の詩を。
これが大ヒット。「うっぷるるるる~!」とマネする声が闇夜に響き渡る。

充実した一日、朝になって晴れるといいな。

なんて思ってたら深夜から強風、明け方にかけて大暴風に・・・麓からの吹き上げに南壁からの吹き下しとメッタ打ち。
ガイロープを固定した石が何度も崩され、その度にはだけた幕体が風に煽られバタバタと暴れる。
チビ男も何度も目を覚ましていた。言葉にこそ出さなかったが相当不安だったに違いない。
ウトウトしては崩され、崩れるたびに石を増やして積み上げるが、そんな甲斐もなく朝6時にはついにシェルター倒壊。
時折、自分の身体さえ持っていかれるような風なので火気など使えない。朝飯は後にして即撤収。
こんな状況では浮き石状態のままいくら積んでも同じ。いくらデカかろうが手で持てる石の重さなんてたかが知れている。
埋め込んだ上に積み上げなければ歯が立たなかったというのが後の反省だ。まだまだ使いこなせているなんて言えない。




駐車場へ戻ってのんびりカップラーメンをすすっていたが、風もガスも一向に収まる様子なし。長居しなくて正解だった。



冷え切った体に真賀温泉がうまかった。



これまでの山行、これまでのキャンプの苦労がとてもかわいいものに見えた一日だった。
得たものは大きい。

実のところ、チビ男は今回行くのを当初かなり嫌がっていた。少し早い反抗期、何かにつけてモヤモヤした感じの彼はチビなりにやさぐれて道に迷っているように見えていた。
オトンもオカンにも苛つくが、何より自分に一番苛ついていたのかもしれない。

それがこの日を境にどこか誇らしげで晴れやかな様子に変わった。
怖さ、辛さを乗り越えたことが自信になったのだろう。


「山」という単語もよく出てくるようになった。



が・・・





だからといってオトンが調子に乗って誘いすぎないよう気を付けるべきなのは言うまでもない(汗)

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